研究テーマ

「画像情報処理で医療の未来をささえる」 

 医療や医学研究の現場で使用されている画像情報量は年々増加の一途をたどり、もはや人間の視覚だけでは処理しきれない水準まで達しようとしています。たとえば、画像診断における一患者の検査あたりの画像の数は数百〜千程度まで及びます。 そこで、コンピュータを用いて膨大な量の画像データから重要な情報を抽出、整理してわかりやすく提示したり、複数の情報を組み合わせて新しい画像情報を創出したり、などの医用画像を対象とした情報処理技術に大きな期待が寄せられています。具体的には以下のような技術が含まれます。

・画像中の病変をコンピュータが自動検出することによって読影医の見落としを防止
・手術時に現在の処置部位の周辺の解剖学的構造物との位置関係を分かりやすく表示
・外部からは直接観察できない生体内の微細な構造を数理・物理モデルに基づいて推定

  医用画像の情報処理は、技術的には画像解析、パターン認識や可視化といった一般の画像処理やコンピュータグラフィクスなどの技術の応用である一方、対象とする画像データや対処すべき問題の特殊性によって独自の発展を遂げてきました。つまり、他の分野で使用されている技術を単に転用するのではなく、問題の本質を捉え、その解決に最も適した技術を選択して組み合わせたり、時には全く新しい技術を創りあげていく必要があります。

 本研究室では、以上のような背景に対して、さまざまな医用画像のための情報処理技術を研究開発することにより、医療・医学への支援を通して社会貢献することを目指しています。具体的な研究テーマのカテゴリは、以下をご覧ください。

 



様々な医用画像情報が医療をささえる


計算機による医用画像理解

 医師が画像を観るとき、瞬時にその画像がどの部位を写したものかを判断し、さらに注意深く観ることによって様々な異常を発見したり、といった高度な作業がごく自然に行われています。この能力は、その医師の学生時代から研修医に至るまでの長期かつ様々な学習およびトレーニングに加え、日々の臨床業務を通してさらに発達し、維持されているといえます。
  これらをすべてコンピュータに代替させるのは容易なことではありません。 しかし、医用イメージング技術の発達によって画像が時間、空間ともに高解像度化し、計算機の能力も大幅に向上した結果、限定的な状況ではコンピュータが医用画像を理解し、臓器などの構造を正しく認識したり、病変を自動的に検出したりなどを高精度で行うことができるようになってきました。よって、その結果を医師に補助情報として与えることで日々の診療に十分貢献できるレベルになっています。

 そして近年、人体の構造や機能に関する知識を膨大な画像データに基づいて数理的にコンピュータの中で表現・保持し、医用画像の処理に役立てることによってさらに医学や医療に貢献しようという新しい学問「計算解剖学」が生まれています。単なる医用画像を対象とした画像処理でなく、膨大かつ体系化された人体の解剖学的知識や数理モデルに基づく高度に知能化された画像理解を行うシステムの開発、また処理結果を診断や治療に応用する際の方法論なども含め、世界中で活発に研究が行われています。

 本研究室では計算解剖学の研究の一環として、コンピュータが医師と同等に柔軟に医用画像を理解することで医療および医学研究を支援する技術の研究を行っています。入力された画像の部位の推定、解剖学的なランドマークの検出といった基礎的な部分から、臓器領域の抽出、脳動脈瘤などの自動検出に至る応用までが対象です。その際にキーとなる技術は、パターン認識や統計的な機械学習です。すなわち、医師が長期にわたって人体の構造や機能、および疾患について、またこれらの画像での見え方について学習したように、コンピュータにも様々な学習をさせたり、これらの知識を整理してコンピュータ内で表現したりすることによって、医療および医学研究をささえます。


医師と同様に医用画像を理解する
コンピュータは実現可能か?


拡散MRI

 拡散MRIとは磁気共鳴イメージング法(Magnetic Resonance Imaging : MRI)の一種であり、生体内の水分子の動きを画像として捉えることのできる撮影法です。これによって生体内の様々な情報を取得することができます。例えば、水分子が神経束などの線維構造に沿った方向によく移動し、その垂直方向にはあまり移動しないといった性質に基づいて、線維の走行方向が推定できます。その情報に基づいて神経の走行を可視化したものはTractography(線維束像)と呼ばれます。また、線維に垂直な方向のあまり移動しない水分子の情報から、神経束のサイズも推定できるようになってきました。

 本研究室では、 拡散MRIにおける信号値モデルや神経束構造の推定方法に関する技術の研究を行っています。特に最近では、拡散MRIの様々な信号値モデルのパラメタを深層学習で頑健に推定する方法についても研究しています。また、これらの研究成果に基づく拡散MRI解析のためのオリジナルソフトウェア「diMaRIA」を公開し、医学系、工学系の様々な研究に応用できるよう提供しています。

 


拡散MRIによるTractography


形状モデリング・物理シミュレーション

 撮像した医用画像に基づいて人体内部の構造物をわかりやすく医師に提示したり、医用画像理解を行うコンピュータの機械学習に使用したりする場合、形状情報を様々な形式で表現する必要があります。もっともよく知られているのがTVゲームなどでも使用されているポリゴン表現です。自動、あるいは対話的な処理による医用画像の認識結果に従って、適切な表現形式で臓器構造などをモデリングすることは、実際の医療に応用する上で重要となります。また、 臓器の変形、切除などの手術操作、医用画像が撮像される過程を物理モデルに基づいてシミュレーションすることは、手術のリハーサルやナビゲーション、さらに医用画像の性質を理解する上で必須となります。
  本研究室では、上記のような医用画像に関連したモデリングやシミュレーションに関する研究を行っています。


血管形状の様々な表現
左上:陰関数(多値ボクセル)表現
右上:ポリゴンによる境界表現
左下:テーパ付円筒の集合による表現
右下:左下図の部分拡大


光学顕微鏡による計測・解析手法の開発

 生きている細胞やそれを覆う膜、あるいはそれらを模したモデル系(例:脂質二分子膜)は、基本的に“透明”です。これらの観測において、光学顕微鏡を用いる場合には、透明な観察対象を可視化する様々な工夫が必要です。それらの工夫では、多くの場合、光の「干渉(波同士が重なり合って、強めあったり、弱めあったりする現象)」を利用します。また、光学顕微鏡による観察画像の価値をさらに高めるためには、高速度カメラによる長時間連続記録を行ったり、同時に観察対象の物理計測(例:電気計測)を行ったりすることも有効です。
  本研究室では、上記のような光学顕微鏡を用いた計測・解析手法の開発を、「情報科学」、「自然科学」、「工学」の融合により行っています。そこでは、ソフトウェアや実験装置の自作・改良といった「手づくり」の部分を大切にしています。

 


白血球系の細胞である好中球の貪食(異物の取り込みと処理)を5 ms時間分解能で画像記録・解析した例

 

卒業論文・修士論文テーマ

「タンパク質溶液観測のための高速度画像記録装置の改良」 H30年度 卒業論文
「DKIパラメタ推定を目的とした生成型Q空間学習における学習時雑音量決定のための画像解析」 H30年度 卒業論文
「生成型Q空間学習によるDKIパラメタの推定における学習時雑音量と推定エラーの関係」 H30年度 卒業論文
「肺結節自動検出における特徴量追加が逐次選択法に与える影響の分析」 H30年度 卒業論文
「マルチタッチ液晶ディスプレイを用いたボリュームデータ表示システムにおける断面回転の高精度化インタフェース」 H30年度 卒業論文
「乳房X線画像における病変の種別および良悪性の同時分類CNNの評価」 H30年度 卒業論文

「一次元光検出素子とXY自動ステージを用いた顕微鏡計測装置の試作」 H29年度 卒業論文
「HRCT画像とPET画像から抽出した特徴量の逐次選択による肺結節の良悪性鑑別」 H29年度 卒業論文
「定量位相顕微鏡の改良:光源の波面計測と評価」 H29年度 卒業論文
「肺結節自動検出のための特徴量選択法の性能比較」 H29年度 卒業論文
「Demonsアルゴリズムのカラー画像への拡張と拡散テンソルカラーマップへの応用」 H29年度 卒業論文
「ボリュームデータの任意断面表示のためのマルチタッチ液晶ディスプレイによる直感的ユーザインタフェース」 H29年度 卒業論文

「CNNによる乳房X線画像の病変良悪性鑑別における部分領域学習の有効性検証」 H29年度 修士論文
「拡散MRIにおける放射基底関数を用いたQ空間補間の精度評価」 H29年度 修士論文

「逐次選択法を用いた特徴量の決定に基づく肺結節自動検出」 H28年度 卒業論文
「好中球動画像の分割ブロック領域内における平均輝度値変化に基づく開口放出の自動検出」 H28年度 卒業論文
「CT画像からの腸間膜の再構成における仮想物理モデルを用いた曲面の法線方向推定」 H28年度 卒業論文
「乳房X線画像における病変の良悪性鑑別のためのCNNによる部分領域学習と多数決処理」 H28年度 卒業論文
「平面脂質二分子膜の形成確認のための電気ー画像同時計測装置の外部同期による改良」 H28年度 卒業論文

「拡散MRIにおける脳白質線維モデルを用いた軸索半径の推定」 H27年度 修士論文
「心電同期CT画像におけるDemonsアルゴリズムを用いた左心室形状トラッキング」 H27年度 修士論文

「胸部3次元CT画像における冠動脈心筋ブリッジの定量化および対話的計測」 H27年度 卒業論文
「KINECTを用いた手の形状計測およびX線画像のAR表示」 H27年度 卒業論文
「CT画像上で入力された点群情報および放射基底関数による腸間膜の形状推定」 H27年度 卒業論文
「Q-ball イメージングによる方位分布関数に基づく脳白質線維束構造の解析」 H27年度 卒業論文
「CT 画像における肺結節自動検出のための初期候補検出から識別処理までの総合的な性能改善の試み」 H27年度 卒業論文

「拡散尖度MRIの雑音低減を目的とした全変動による拡散強調像の正則化」 H26年度 卒業論文
「あいまいな境界情報の入力に基づく対話的臓器領域抽出法」 H26年度 卒業論文
「計算機による医用画像理解を目的とした深層学習によるCT画像の撮影部位認識」 H26年度 卒業論文
「心電同期CT画像における心室壁追跡の誤差低減のための一手法」 H26年度 卒業論文

 

 

共同研究プロジェクト

 本研究室では、他の研究機関、特に医療系の施設と共同で研究を行っています。

CIRCUS(統合的CAD開発プラットフォーム)

 X線CTやMRIをはじめとする画像機器の進歩に伴い、医師は膨大な量の画像を観察する必要が生じ、大きな負担となっており、そのような作業を長時間続けることで、見落としなどを招くことにもなります。したがって、診断の効率・精度の向上をもたらすコンピュータ支援診断/検出(computer-assisted diagnosis/detection, CAD)技術の開発が期待されています。 CADソフトウェアの開発/臨床応用を促進するためには、アルゴリズムの開発、ソフトウェアの実装、臨床使用、知見のフィードバック、アルゴリズムおよびソフトウェアの改善、さらなる臨床使用の循環が必要です。 CIRCUSとは、これらの循環を実現することを目的とした、東大病院放射線科による統合的なCAD開発プラットフォーム CIRCUS(Clinical Infrastructure for Radiologic Computation of United Solutions)、およびその関連の研究プロジェクトの名称です。 本研究室の増谷教授がコアメンバーとして参画しています。
 CIRCUSシステムが従来のCADシステムと大きく異なる点は、システムを使用しながら学習させることができるようなインターフェイスがデザインされていることです。 つまり、日々の使用においてコンピュータが指摘した結果に対して、医師が「採点」することで新しい学習サンプルが生成できます。この採点を「フィードバック入力」と呼び、CIRCUSシステムの大きな特長です。


 

多元計算解剖学の基礎数理(文科省科研費新学術領域)H30年度で終了

 新しい学問である計算解剖学に必須の医用画像は近年、単なる量だけでなく、医療の現場で使用される種類も増加しています。例えば、X線CT、MRI、超音波、PET、顕微鏡など、撮像原理や撮像スケールの異なる画像、また過去に検査した画像を含めた時系列の画像など、いいかえれば医用画像は多元化していると言えます。 これらの情報の多元化を計算解剖学において考慮することは、様々な画像を駆使して診断や最適な治療を実現しようとする実際の医療の現場で役立てる上で必要不可欠となります。
 本研究室の増谷教授は、文科省プロジェクト「医用画像に基づく計算解剖学の多元化と高度知能化診断・治療への展開」の計画研究「多元計算解剖学の基礎数理」の本谷班および総括班に研究分担者として参画しています。


 

臨床医療における数理モデリングの新たな展開(CREST)

 医用画像処理に限らず、高度に知能化された画像処理技術において、その理論的基礎となる数理科学の果たす役割は年々大きくなっています。数理科学の分野の様々な成果を放射線医学、すなわち画像診断や画像誘導治療に応用するため、分野の枠を超えて臨床医学者と数理科学者が協働して先端的な研究を進めていくプロジェクトです。
 本研究室の増谷教授が、CREST研究「臨床医療における数理モデリングの新たな展開」に参画しています。